鉛筆だけで書かれていて字が読みにくくてあまり好みではないけれどストーリーはすごくよかった。セリフも素晴らしい。こういう家庭ありそうっていうリアル加減がすごい。。大人と子供の関係とか、教育なのかただの洗脳なのか曖昧なところとか大人になれていない母親に育てられることの怖さとか東京と関西の差とか。なんかいろいろなところで「よく観察してるなあ」って思う。
私自身、東京にも大阪にもそれ以外の地方都市にも住んだことがあるので地域性の違いで嫌悪感を抱く人の気持ちはすごくよく理解できる。主人公が東京から関西に来て「無理!」って思って絶対に馴染まないと決めてるところなんか胸が苦しくなる。中学生で親元からいきなり離されて言葉も文化も違うところに放り出されて、それでも反発もできないくらい感情が死んでて。一種の虐待なのに、それを正当化してる両親が気持ち悪い。悪魔。
対比として関西人の家庭が煩わしいけど温かいけどちょっと品がない家庭みたいな形で出てきて、会話も関西人らしい掛け合いでたぶん生粋の東京人は聞いててひどく疲れるような感じで。すごく共感できるところ。人生のほとんどを西日本で過ごしてきたこともあって私はどっちかといえば関西の方が親しみを感じられるタイプ。でも長く住むなら別の街かな。やっぱり。人間関係の距離が近すぎるので、ちょっとまだ30代にはきついなあと思う。年取ったらそれが安心につながるんじゃないかと思うんだけど。
ここに出てくる東京の家族は「正しい」「善悪」とかそういうのに異常に気を使ってる感じ。だから息苦しいんだと思う。それが東京の象徴でもある。気持ち悪い人がいっぱい出てくる。母親もいい大人になっても娘の感情を試すことで自分を保ってる人間だし。娘もそういう母親に育てられておかしくなってるし父親も不倫してるわ不倫相手の女もおかしいわでなんか都会の象徴(笑)
関西の親戚一家はすごく正直な人たちとして描かれていて、感情を表に出さない主人公を毛嫌いせずにちゃんと「見て」あげてる。けっこう失礼な事ぽんぽん言ってるにも関わらず許容してるところが関西らしいなあというか。あまりに度を越すと怒ったり嗜めたりしてくれる若者が出てくるんですが、大人は余裕があるのか一旦は笑いで返して、相手の機嫌を測るようなことするんですよ。
これは私も関西に住んで経験があったので、関西人ってこういうことするする!って思った(笑)
例えば大して親しくない人間と会話してるとき。自分が機嫌悪いときに、指摘されたくないことを突っ込まれたりするとつい勢いで感じ悪くなったり、ムッとして言い返したりするじゃないですか。すると相手との距離を詰めるのに敏感な東京人は当たらず触らず無言でスルーするか「そんな言い方しなくても・・・」みたいな捨て台詞を残して立ち去るかごくたまに「どうしたの?」って言う人がいるぐらい。
でも関西人だと必ずと言っていいほど笑いで返すんですよね。言い返されてもまず東京人みたいに売り言葉に買い言葉とかならない。かっとしない。冷静に笑いで返そうとして一旦ぐっとほじくる(笑)わざとその態度を軽くつつくんです。そこで笑ってくれたなら相手の機嫌はそんなに悪くないと判断できるというか。それをきっかけに相手もムッとしたことを大人げないと思って反省できる。その隙を与えてくれる関西人って本当に優しいなあって思ってた。今でもそう思う。そこでさらに怒りを買うことももちろんあるんですがそういう人はほとんど東京人(笑)
日常に余裕がない、会話に余裕がない、言葉のかけあいを楽しもうとしないのが東京人。関西の家庭の会話の応酬って聞いてると確かに下らないんだけどその下らない会話そのものを楽しんでるのが関西人。東京でキャリア積んで婚活してとか息つまってる人なんかは一度は関西に住んだ方がいいと思う、ほんとに。人生観みたいなの確実に変わる。人生に対するスタンスがまるで違うから。同じ日本なのにこうも違うのかって。関西時代の懐かしい記憶を思い出させてくれた本でした。